【2022年3月 フォトギャラリー】この世に存在しないモノを撮る
フォトギャラリーでは、毎月テーマを決めて撮影した写真を公開しています。
テーマは私が通う写真学校の宿題として出されたもの。授業は月に一度。生徒は1ヶ月かけてテーマに沿った写真を撮影します。
何かを伝えられる写真。今しかない一瞬を切り取った写真。見てくれた人がポジティブな気持ちになれる写真。そんな写真を撮影したい。
写真学校の様子とともに、撮り下ろし写真をご紹介します!
亡くなった人たちと話がしたい
「この世に存在しないモノ」なんてどうやって撮影するの?と一瞬、面食らった今月のテーマ。
考えているうちに「亡くなった人たち」を撮影したい、という思いが湧いてきました。
子供時代が過ぎて、長らく会わないうちに亡くなってしまった人たち。
認知症を患う母が少しづつ記憶を失っていく中で、逆に私は昔の記憶を手繰り寄せ、子供時代の情景を思い起こしています。
「怖かったあの人が、本当は一番わたしたち家族を心配してくれていたのでは」「口の悪いあの人が、本当は優しさにあふれていたんじゃないのか」「あの時母を支えてくれたのは、あの人だったのでは」
振り返れば恵まれた環境の中でのびのびと過ごした日々。でも、それは周囲の大人たちの思いやりや気遣いによって実現されていたんですよね。
感謝の気持ちを伝えることもなく、亡くなってしまった。
もし今あの人たちとまた会えたら。
亡くなった人たちと会話しながら撮影した写真です。
坂井好子
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Sue S
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田辺すえ
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事実と記憶の間
先生は、「まず事実がドーンと提示されることで、“なんだろう?”という興味が湧きますね。そのあと人柄を表す写真が続き、その人を思うコメントで締める。構成がすごく良かった。この作品と向き合ってみて、どうでしたか?」
亡くなった事実や、晩年闘病していた姿じゃなく、彼女たちが輝いてた姿を再現したかったんです。そうしたら子供の頃には見えなかった、大人たちの関係や思いに気づかされました。
「良かったですね。写真的には、もう少し背景に気を使えばもっと伝わったかもしれない。」
「1枚目の坂井さんは、畳が背景になっていて、彼女が手仕事をしていた雰囲気が出ているけど、2枚目のSue Sは鏡とか、化粧品とかなんとなく見えているともっとこの女性について想像がふくらんだかもしれない。3枚目のすえさんは、コロッケ実際に作ってみたの?」
いえ、買いました!!
「そうか〜。お惣菜屋さんの厨房にしてはキレイすぎるね。もっとリアルな厨房に寄せてこだわれば、すえさんの実際の人生に近づけただろうね。」
「ここまできたら、リアリティーの追求をもう少しやってみて」
はい。
老人ホームに勤務するクラスメートは、「お年寄りが入所してきた時と亡くなった時、ひとりひとりにこうした振り返りをして、職員同士で話し合うんです。実際にそのお年寄りが好きだった作業を職員でやってみることもあります。2枚目のネックレスは、うちの施設でやっているビーズ細工みたい。」と話してくれました。
ひとりひとりがかけがえのない存在
記憶をたどれば、そこにはかけがえのない人たちが生き生きと甦る。
本当にいろいろありがとう。またそのうち、会えるよね。いづれみんな、あの世に行くんだから。
では、また来月。